竹村さん 「この自然エネルギー支援というのは、電気やガスのないところに自然エネルギーで電気や熱を供給するシステムを届けようということで始まったわけですけれど、活動が進んでいくにつれ、それを設置する人やその技術が、地域を活性化していくための産業や雇用に繋がっていくんじゃないかと感じ始めたわけです。これを被災地の復興とどう結びつけていくかということがとても大事なのではないか、そのあたりを皆さんと話をしていきたいと思います。」
「実は、今日この会場に、最初の立ち上げ時のメンバーが何人かいらっしゃいます。先ほど太陽光発電とバイオマスの話がありましたが、太陽熱の話ができませんでしたので、太陽熱を主に担当された『東京都のぐるっ都』チームの三井さんから、太陽熱温水器の話をしていただこうと思います。」
三井さん 「こんにちは。『ぐるっ都地球温暖化対策地域協議会』の会長をしております三井トモコです。私たちは太陽熱温水器によるエネルギー支援を行っております。この『つながり・ぬくもりプロジェクト』が発足してから、まず、4月18日に、名取市に2機設置に行きました。当時は冷たいお水で、被災者のみなさんもボランティアの方たちもお鍋やお皿を洗ったりしておりましたが、この太陽熱温水器というのをつけますと、ガスも電気もなくても、太陽の熱でお湯が取れるわけです。本当でしたら屋根の上に設置するのがよいのですが、地面においても、蛇口をつければお湯が使えるので、まずは、地面に置くという形で設置を進めていくことにしました。この太陽熱温水器の仕組みを簡単に説明しますと、太陽の熱を受けて、お水が温まったものから順に上のタンクに上がっていき、その温まったものから使っていくと、また、冷たいお水が入っていって、お日様に温められて上の方にきて、タンクの中に温かい水が溜まるというシステムです。家庭の給湯とかにこの温水器を利用すれば、一般家庭で約30%くらいの電力エネルギーを節約することができるんですが、そういったことを知っていただきたいという思いもあり、設置を進めていきました。」
「次は、仮設住宅への設置です。仮設住宅は2年間無料で入れますが、光熱費は自己負担です。そこで、この太陽熱温水器をつけると、試算ですが、年間10万円くらいは光熱費が安くなるのではないかとみており、仮設住宅には、設計当初からの仕様として太陽熱温水器をつけた方がいいのではないかという提案も込めて、設置を行いました。」
「次には、宮城県のイチゴ農家の復興支援を考えております。イチゴの栽培は、ハウスに温水を這わせて温度を管理するということで、重油をいっぱい使います。なので、この温水器を設置することで、どのくらい重油を使わないで済んだかということを実験してみていただいて、上手くいくようであれば、農水省とかエネルギー庁に交渉して、太陽熱温水器を設置していけたらと思っています。それから、先ほどの手のひらに太陽の家プロジェクトですとか、自然エネルギー学校として残るところに支援を進めているところです。」
竹村さん 「三井さん、ありがとうございます。ではここで、最初の立ち上げの時に、たぶん一番最初に支援を始められたレクスタという太陽光発電の事業共同組合から、桜井さんと竹内さんがお見えなので、紹介したいと思います。」
桜井さん 「レクスタの桜井です。脱原発世界会議ということで、それに絡めた話をさせていただきます。」
「僕が初めて被災地に入ったのは3月の末だったと思いますが、それから避難所をずっと回っている時、僕らとちょうど競争するような形で、電力会社が電柱をどんどん立てて行きました。そのうち、ちょっと待てよ、と思ったんです。被災地の復旧といいますと、電柱が通っていく、で、明りが灯った、わーっと元の生活に戻った、こういうことになりますよね。だけど、今回は何かおかしいんです。それは何だと思います? 電柱が道路に沿って立って行きます。しかし、その周りは何もないんです。全部瓦礫。家は一軒もない。工場もないんです。そんな状況で、その電柱を一体だれが使うんだと。それを延々と、北は宮古から南は千葉まで、ずーっと立てて行ったんです。距離にしたら、たぶん600km、700km。関わった工事師さんたちが数万人。金額にして、数百億円が吹っ飛んでいるんです。」
「それだけのお金のほんの一部でいいです。震災直後に、電力会社の上の方々、あるいは政府の方々が『避難所に太陽電池をつければいいじゃないか。木質ペレットストーブをつければ、あるいは太陽熱温水器をつければいいじゃないか』と瞬時に決断してくれていたら、たぶん、数十億円、いや数億円位で、あっという間に生活が復旧したはずなんです。」
「はじめから自然エネルギーを必要なところに重点的に届けていく。このスタイルなら、もっとずっと早く合理的に普通の生活ができた。しかしそれは、次にくるエネルギー社会に見えるわけで、電力会社にとっては、それが、実は怖かったんじゃないかと思っています。」
「これは、この次の話になりますけれど、電柱を道路に沿って立てました。今までの道路は海岸に沿って走っています。ところが、おそらくこれから、居住地区の高台移転のプランが次々に出てきます。とすると、今まで立てた電柱はどうなるんでしょうか。何万人というマンパワーも、お金も、まったく無駄ではないか。ものの順番が、復興の仕方が、あまりにも型にはまった形で動いている。そういうことを感じながら、支援活動をさせてもらっております。」
竹村さん 「このプロジェクトに関わったいろいろな人たちのお話を伺いましたが、ここからは、このプロジェクトについて、もう少しこんなことが知りたいといった、会場からのご質問を受けたいと思います。」
質問者 「質問ですが、雪が降ると太陽光発電とか太陽熱温水器とかはどうなるんでしょうか。」
三井さん 「冬は、やはり、水の配管の部分が凍結して使いにくくなるということは聞いています。そのため、夜のうちにたまっていた水を使いきってしまって、朝になってから、また水をためてお日様にあててもらうといいそうです。真空管式だと真空管の間を雪が落ちていくので、少し効率は上がるのではないかと思っています。」
竹村さん 「あまり雪の多い地域には、この方式は設置しないということですね。今回の被災地は、通常、雪はそんなに多くないところです。」
三井さん 「付け加えると、冬だから、北の方だから太陽熱を受けられないんじゃないかということはなくて、適切な角度で設置すれば、日本全国どこでも、夏と冬ほとんど同じくらいに太陽熱を利用することができるそうです」。
竹村さん 「太陽光発電の場合は、パネルの表面が結構滑るので、雪が積もるところでも、パネルの上には雪があまり残らないと聞いています。だから、たまにドカ雪が降ると、太陽光パネルからドーンと雪が落ちて、かえって下にいると危ないということもあるようです。」
「それと、雪が降ってあたりが真っ白の中で太陽が照ると、太陽光発電にとっては素晴らしい状況になるらしいです。まず、温度が低い、そして真っ白な雪が太陽光をいっぱい反射して、百何十%という発電をするという風に聞いています。」
桜井さん 「今回の震災の地域は、さほど雪が多くないので、雪の心配はないと思います・・・」
質問者 「今回のプロジェクトの予算についてと、設置に対する優先順位、どういうところからつけていくのかといった基準をお話願います。」
竹村さん 「被災の直後、3月の後半にこのプロジェクトができるんですけれど、この時には、どれだけお金が集まるか、どれだけ設置出来るか分からないという状況でスタートしました。」
「そんななか、ソーラーフロンティアさんが、工場出荷時の検査ではねられたロットのなかから、使用できる製品をこのプロジェクトに無償で提供してくれることになったわけですが、それでも、電気を直流から交流に変えるパワーコンディショナーや配線類は購入しなくてはなりませんし、設置工事のための人件費は発生します。そういった費用を出せる限りは設置をしていこうということでスタートしているので、当初は、予算はまったく考えずに始めました。」
「今は、設置予定額というのが見えてきています。チラシにもありますし、ホームページでもご覧になれます。この設置予定額というのは、これまでに『つながり・ぬくもりプロジェクト』に寄せられたニーズを積み上げていって、それに1kwあたりの想定額をかけて算出したものです。これが、今、想定している予算みたいなものになります。」
「設置予定箇所は、これもホームページでご覧になれます。設置場所としては、太陽光発電が一番要望が多いです。次に太陽熱で、バイオマスのボイラーとかストーブの設置に関しては、若干、ニーズをつかみきれていません。」
「それから、設置に対する基準、優先順位ですね。正直、難しいテーマです。基本的にはニーズがあがった順番でつけていきます。ただ、そうはいっても、今、電気がないとか、すぐ電気をつけなければいけないところが出てくると、そこは、優先順位を上げるということになります。この優先順位に関しては、事務局、幹事団体でいつも議論しています。」
三井さん 「設置場所については、最初からリストがあったわけではないんです。プロジェクトが立ち上がった時に、まず、行政を通して各自治体に太陽光、太陽熱、バイオマスの利用要望があるかどうかを問い合わせたのですが、行政が全然答えられなかった。リストがあれば、効率が良かったのですが、行政が頼れないのであれば、草の根で情報を集めて、情報が集まった中から設置できるものをやっていこうということになり、そういった話し合いをしながらの設置になっています。」
質問者 「お話の中で、今年の9月までは設置と募金活動をし、その後に人材育成をされるということでしたが、今後の事業活動とか、地元の雇用を含めて、この支援活動をどのようにつなげていくかについての見通しを教えてください。」
竹村さん 「2011年の4月から2012年の9月までを自然エネルギーの設置支援期間としていますが、これは被災地の状況によります。ただ、被災地の状況は時を追って変わってきますし、また寄付に関しても、今、設置のための寄付が一番必要なのですが、3月11日から月日が経つにつれ、勢いはどうしても細ってきます。ですから、いつまでもその寄付が続くということではないと思われますので、一応、設置活動については9月までということにして、以降は、これまでこの『つながり・ぬくもりプロジェクト』でやってきたことが、被災地での次の雇用とか新しい事業の種になっていくであろう、そのための人材育成のためのセミナーを開くとか、自然エネルギーについてもっと広く知ってもらうための場を作るとか、そういうことをやっていくことになるのかなと思っています」。
「例えば、新沼さんとか、新たな産業の担い手となる人たちが誕生しています。設置したあとの太陽光発電のパネルや太陽熱温水器にしてもメンテナンスが必要となってきます。まさに事業として、被災地の人たちが取り組めるようにというのが、今私たちが思っているプランです。」
新沼さん 「自分は、これが落ち着いたら、仕事にしていきたいなと思っています。本気で。これまでずっと携わってきて、太陽光の良さっていうのをすごく実感しています。今日は反原発の集まりですけど、全然そういうのは無知なんですが、でも、太陽光触ってりゃ、何かにつながるんじゃないのかなと思っています。声を荒げて言っているより、行動した方がいいと思っているのも事実だし、これを流行らせりゃいいことあんだろうと思っていますんで、がんばります。」
唐沢さん 「今回、東北が被災したことで、経済的にも大きなダメージを受けましたが、今、私たちがやっている被災地に新しい雇用を生み出すということは、単に東北を復興させるというだけではなく、日本全体とか、世界に発信していくモデルになると思っているんです。」
「このところ、被災地に関する報道がだんだん減ってきていると感じますが、ぜひ、これからの東北をよく見ていただいて、自分たちで出来ることを真似していただいて、より良い世の中を一緒に作っていけたらと思います。よろしくお願いします。」
竹村さん 「新沼さん、子供たちの話もしていただけますか?」
新沼さん 「うちの子供たちもそうですけど、小学校や幼稚園が津波で流される様を目の前で見ていて、近所の子は、川すら見たくないと。子供たちの傷は深いんです。だから、支援に行ったときは、おじいとかおばあもそうですけれど、子供たちと話をしてあげるように努めています。」
竹村さん 「どうもありがとうございます。被災地は、まだまだ、いろいろな産業や仕事が復興していない状況です。私たちは、新沼さんと出会えたことは、このプロジェクトにとって大きな宝だと思っています。でも、産業に育てるには、一人じゃ足りない。第2、第3の新沼さんを育てていかなくてはなりません。新沼さんには、その先頭に立っていただきたいと思っています。」
桜井さん 「仕事作りなんですけれども、与えられるのを待っているんじゃいけないと思うんです。自然エネルギーの一番の大きなポイントというのは、自分たちの手の中で、自分たちの生活が作れるということなんです。だから、産業を起こすということは、自分たちのコミュニティ、自分たちの場所でもって、自分たちの工務店を作ろう、自分たちのバイヤーを作ろう、自分たちの電力提供者を作ろう、そういう活動を自分たちでやっていくということだと思います。自分たちのコミュニティを自分たちで作る、この発想をきちんと持っていかないと自然エネルギーは普及しない。そういう観点から考えていただければと思います。」
竹村さん 「いろいろな人たちが協力をして、このプロジェクトが出来上がっていって、もうすぐ1年になります。これまできちんと持続できたということは大変なことだと思います。たぶん、今日お聞きになっている方の中にも、ご寄付をいただいている方がいらっしゃると思いますが、その成果が少しずつですけれども、実を結んでいるということを、ささやかですけれどもご報告とさせていただいて、次の展開に移っていきたいと思います。」
「次の報告会が決まっております。2月22日水曜日、午後13時30分から、千代田区の日比谷図書館大ホールで行います。この時には、さきほどもご紹介しました住田町から、町長さんがお見えになりますし、住田町の木造仮設住宅の入居者の方もいらっしゃる予定ですので、実際に太陽光発電、太陽熱温水器を使ってみての感想なども伺えると思います。」